夏休み期間中、中学生の娘の課題をこなすため、「鹿児島県歴史・美術センター黎明館」で開催中の「田中達也展 みたてのくみたて」に行ってきました!
田中達也さんは、日用品や食材など身の回りにある“もの”を、まったく別のものに見立てて表現する“ミニチュア写真家”。SNSでは国内外に多くのファンを持ち、Instagramでは400万人以上のフォロワーを誇ります。
私自身、SNSで作品は何度も見たことがありましたが、展示会で生で見るのは今回が初めて。ワクワクしながら会場へ向かいました。
展示順レポート:7つのテーマで見立ての世界を巡る
この日は夏休みが始まったばかりの週末ということもあり、会場は親子連れを中心に多くの来場者で賑わっていました。しかしながら、場内の通路は広く、ゆったりとした空間設計。混雑していても作品をじっくり見られるのが好印象でした。
しかも今回は、田中さんの発想のプロセスまでひも解く展示構成になっていると知り、一層テンションアップ。大人も学びの多い展示会と言えるでしょう。
会場内の展示は、「見立ての方法」に注目した7つのテーマで構成されています。どの順番で回っても楽しめそうですが、今回は順路に沿ってじっくり鑑賞しました。
【1】HOME ─ 暮らしから考える
まず最初のゾーンでは、我々の生活に馴染みのある日用品が登場。ガムやホッチキスの芯などが“暮らし”の中に溶け込む見立ての素材として使われていました。
何度も目にした身近な食べ物や文具が、まさかベッドや公衆トイレに見立てられようとは思いも寄らず。まだ展示会の最序盤にもかかわらず、一気に田中さんの世界の中に引き込まれます。
【2】FORM ─ 形から考える
ここでは、モノの“形”そのものを別のものに見立てた作品が並びます。
たとえば、ドーナツをCTスキャンに見立てた作品や、巻き寿司を円グラフに見立てた作品など、ひと目見た瞬間に「なるほど!」と声が出そうになる仕掛けばかり。
特に印象的だったのが、洗濯板と洗濯桶をオーケストラに見立てた作品《桶(おーけ)ストラ》。
洗濯板がステージ、桶が観客席のように見える発想力に脱帽です。作品名も「オーケストラ」と「桶」をかけた言葉遊びになっていて、タイトルを見るだけで楽しくなってきます。
このエリアにはフォトスポットとして、自転車の車輪のように見える“眼鏡”の作品も。
まるで“自分が作品の一部”になったような気分に味わうことができ、大人も子どもも楽しそうに撮影している様子が印象的でした。
【3】COLOR ─ 色から考える
ここでは、色彩をヒントに風景を“見立てる”作品が並びます。
筆者が特に感動したのは、黄色いセーターを麦畑に見立てた作品と、デニムのショートパンツを波打つ海に見立てた作品。
どちらも本物の衣服を使っているのですが、「素材」としてではなく「色と質感」で自然風景を表現しており、アパレル業界出身の私としては特に心に響くものがありました。
これらの作品は、洋服の表情をまったく違う文脈で使っており、まさに「視点を変える」楽しさを体感させてくれます。
【4】SCALE ─ スケールを変える
次のコーナーでは、スケールの違いに着目した見立てが登場。中でも圧巻だったのが、電子基盤を空港に見立てた作品《交通は社会の基盤》です。
ICチップや配線が滑走路や搭乗ゲートに見え、ミニチュアの飛行機や作業員を配置するだけで空港として成立する完成度。
このコーナーには、「アイデアのまとめ方」に関するパネル展示も。発想の切り口をどのように組み合わせ、展開していくのかを図式化したような内容で、「なるほど!」と思わず足を止めて読み込んでしまいました。
【5】MOTION ─ 動きや変化から考える
ここは“動き”や“時間”を感じさせるモチーフが登場するゾーン。
たとえばメトロノームの動きをテニスのラリーに見立てたり、回転するレコードを宇宙の星の自転・公転に見立てたりと、目に見える変化をとらえた作品が多かった印象です。
シンプルな素材でも、動くことで物語が生まれてくる……その発想に脱帽でした。
【6】LIFE ─ 生き物におきかえる
このコーナーでは、食材や道具が“生き物のように振る舞う”作品が並びます。平たく言うと「擬人化」です。
中でも印象に残ったのは、お寿司が服を試着するブティックを描いた作品。
シャリの上にさまざまなネタが“洋服”のようにディスプレイされていて、試着室や店員のいる演出もリアル。まるでアパレルショップを再現したような世界観で、「これはお寿司じゃなくてファッションだ!」と思わず笑ってしまいました。
【7】WORLD ─ 世界共通のことから考える
最後のテーマは「世界共通」。誰もが共有できる概念をもとに見立てを行った作品が展示されています。
田中さん自身、海外へ行ってもその国ならではの文化より、各国に共通するものを探す癖がついているのだそう。「多様性の時代」と謳われる現代だからこそ、童謡「It's a Small World」のように見立てを通じて「世界は同じ」であることを表現したとのことです。
このゾーン内にある目覚まし時計をドラムセットに見立てた作品は、もう一つのフォトスポットにもなっていました。作品の前に立つと、まるで自分がドラマーになったような気分に。
鹿児島会場限定の作品も登場!
展示の最後には、鹿児島会場だけの限定作品が用意されていました。
奄美の郷土料理「鶏飯」を海中の風景に見立てた作品
さつま揚げでできた屋久杉の森
桜島フェリー名物の“うどん”を使った作品(お揚げ=桜島!)
特にフェリーうどんの作品は、鹿児島県民なら「あるある!」と共感できる見立てで、個人的にとても印象に残りました。日常にある“地元の風景”がアートになる感覚に、あらためて田中さんの発想力を感じます。
まとめ
田中達也展「みたてのくみたて」は、ユーモアと驚きに満ちた“見立て”の世界を、五感で楽しめる体験型の展示会でした。
作品そのものの完成度はもちろんのこと、発想力や仕事術にまで迫る展示構成には、創作のヒントもたっぷり。
写真OK・フォトスポットあり・親子連れにも優しい、夏休みのお出かけにもぴったりの内容です。
SNSで見たことがある人も、ぜひ一度“生で”見てみてください。あなたの「日常」がちょっと楽しく、ちょっと違って見えてくるかもしれません。
開催概要
【展覧会名】田中達也展 みたてのくみたて
【会場】鹿児島県歴史・美術センター黎明館
【会期】2025年7月4日(金)〜8月31日(日)
【時間】9:00〜18:00(最終入館17:30)
【休館日】7/7(月)、7/15(火)、7/22(火)、7/25(金)、7/28(月)、8/4(月)、 8/12(火)、8/18(月)、8/25(月)
【観覧料】一般:1300円/中高生:1000円/小学生:700円/未就学児:無料
- 公式HP「田中達也展 みたてのくみたて」